2008/03/26

当臍動悸



浅田宗伯は補中益気湯使用の目安として以下の八項目を挙げた。

1.手足倦怠
2.言語軽微
3.眼勢無力
4.口中生白沫
5.失食味
6.好熱物
7.当臍動悸
8.脈散大無力

この八項目のなかでよくわからないものが一つある。
それは当臍動悸である。
文字通り腹部の触診の際に手を臍のあたりに当てると動悸を触れるというものだが、西洋医学的な観点から言えば動脈瘤以外で腹部大動脈が拍動していることにどんな意味があるだろう。
長い間僕にはこの動悸触知の意味がわからなかった。

今日薬剤師さんたちに漢方の講義をしていてふと気が付いた。これは補中益気湯が平滑筋のトーヌスの低下している患者に用いるということに関係があるのだ。

腹部大動脈というのは血液を下半身に運ぶ太い水道管のようなもので、心臓の拍出する血液の推動力を無駄なく末梢に運ぶという観点からすると、人体の中でおそらくもっともシンプルな役割を担っている器官である。拍動の圧によって筒の径が拡張すると推動のエネルギーが失われて効率が悪いので、拍動によって径がまったく変化しない鉛の水道管のような低コンプライアンスの円筒構造物が理想だろう。だから平滑筋のトーヌスの高い、元気な人の場合は拍動に伴う腹部大動脈の径の変化は少なく抑えられていると考えられる。
だが病的な状態で平滑筋のトーヌスが低下してくると拍動のたびに腹部大動脈は大きく伸展する。腹部大動脈と腹壁の間に存在する腸管平滑筋や腹直筋のトーヌスも低いので、腹壁を圧するとダイレクトに腹部大動脈の拍動を触知することが出来るようになるだろう。
当臍動悸とは平滑筋のトーヌスの低下を意味するのかもしれない。

2 件のコメント:

  1. 匿名3/29/2008

    うぬ、とーしですが、頑張って読んでみたら、仰っていることは何となく分かったような気がします。

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  2. おお、とーしさん。コメントサンキュです。独り言みたいな文章をアップするな!というお叱りの言葉もなく(ここは人生幸朗師匠の口ぶりでお願いします)、暖かく見守ってくださってありがとうございます。

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