2008/07/08

第二の地球へ



ある日少年は父親の指示で旅に出る。
少年の住む社会では、外の世界を旅して何か記念の品を持ち帰ってくることが大人として認められるための条件だった。
旅に出てまもなく少年はジャングルで見知らぬ男達に捕らえられてしまう。どうやら少年はその村で最近頻発している人さらいに間違われたようなのだ。
誤解が解けた少年はその土地の少女と仲良くなった。少年は少女に村を案内してもらい彼女と話しているうちに、この世界がいくつかの小さな世界に別れていることを知った。
少年の住む世界は工業製品を作っていたが、少女の世界は野菜や果物や穀物を作っている。彼の住む世界では工業製品をトンネルのベルトコンベアーに乗せて送るとトンネルの向こうから食物が送られて来る。彼女の世界はちょうどその逆で、食物を送ると衣類や機械が送られて来る仕組みだった。彼等は幼い時からそれが当たり前と考えていたが、実はトンネルの向こうとこちらで農業の世界と工業の世界にわかれていたというわけだ。

ある日少女は何ものかに誘拐されてしまい、少年は彼女を捜す旅に出た。
学者たちの世界にたどり着いた彼はそこで不思議な話を耳にする。
この世界は実は数百年前に地球という惑星から飛び立ったものすごく巨大な宇宙船だというのだ。人々は極度に環境の悪化した地球を捨て、巨大な宇宙船でアルファ・ケンタウリを目指して飛び立った。最初のうちはみんな仲良く暮らしていたが、やがて各々の世界の交流は疎遠になり、お互いに連絡を取り合わなくなってしまったというのだ。
だが学者たちの間ではこれは単なるおとぎ話とされ、それを信じるものは誰もいなかった。
少年は図書館でこの伝説に関する書物を探し当て、それが真実であることを確信する。
それだけではない。少年の計算ではこの宇宙船は数百年の旅を終え、まもなくアルファ・ケンタウリに到着するはずだ。新しい惑星に近づいたら宇宙船を減速させ、飛行艇に分乗して惑星に移住しなければならない。地球を飛び立ったときには多くの人が宇宙船の操作方法を知っていたが、今では誰も宇宙船の操作方法を知らない。減速しなければそのまま宇宙船は惑星に激突してしまうだろう。

少年は引き続き少女を捜す旅を続ける。ある日彼は快楽の世界に到着する。その世界では人々は一日中安楽椅子に座って見たい映画を見、食べたいものだけを食べて暮らしていた。快楽の世界の住人はほかの世界から人々を誘拐して奴隷として働かせていたのだ。ほどなく少年は少女を発見し救出し、快楽の世界から脱出する。

少年は少女に宇宙船の真実を告げた。早くみんなに自分たちの世界の事実を知らせ、宇宙船を減速させなければならない。
やがて二人はこの宇宙船の責任者である長老と出会う。長老は宇宙船のコントロール室に独りで住んでいたのだ。彼は間もなく宇宙船が目的の惑星に激突することを知っていたが、それを避ける手だてはないという。

「世界中の責任者を全員集めて事態を説明しましょう!」
「それは無理じゃ」
「なぜ無理なのです」
「それぞれの世界の住人は自分たちの住んでいる世界だけが真実で、ほかに世界があるとは思ってもみないだろう。ましてやこの世界全体が間もなく消滅してしまう宇宙船だなどと誰が信じよう。各々の世界の責任者達はそれぞれの世界のことで精一杯なのだ」

そこで少年は長老に提案した。
「この世界の重力を生み出している宇宙船の自転を止めればみんなとても困るでしょう。そうすれば各々の世界の責任者達を一堂に集めて話し合いをすることが出来るのではないですか」
長老は答えた。
「いや。それは無理だ」
「どうして無理なんです」
「宇宙船の自転を止める権限はわしにはないからだ」
「では誰がその権限を持っているのです」
「それぞれの世界の責任者だ。彼等を集めて全員の同意を得なければ宇宙船の自転を止めることは出来ないのだ」


やがて静かに少女が言った「これが宇宙船の自転を止めるレバーですね」
長老は警戒した目つきで少女の指さす方向を見つめ「うむ、そうじゃ。だがそのレバーは」と言ったときにはすでに少女はレバーに手をかけていた。みんなが「あっ」と叫ぶ中、少女は力ずくでレバーを押し下げていた。


どうでしょう。このSFジュヴナイル小説のおもしろさを幾分かでも皆さんにお伝え出来たでしょうか。
このあと宇宙船の中は文字通り天地をひっくり返したような騒ぎになり、みんなは力を合わせて「第二の地球」へ移住するわけです。

僕がこれを読んだのは小学生の頃なので、記憶違いも多いと思います。でも最近話題の地球温暖化問題とか、資本主義社会全体の構造的破綻を身近に感じるにつけ、この少女がレバーを押し下げる様子が何度も僕の脳裏によみがえってくるのです。この少女の、せっぱ詰まった、愛すべきおっちょこちょいな行動が。


ミルトン・レッサー作「第二の地球へ」
小学生だったときに近所の年上のおにいちゃんから譲ってもらった
講談社「少年少女世界科学名作全集」の中の一冊。
原題は"The Star Seekers (1953)" by Milton Lesser


2 件のコメント:

  1. 匿名8/14/2013

    懐かしいですね(^_^;)
    小さい頃買ってもらった3冊のシリーズほんの一つです。

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  2. ありがとうございます。記憶を頼りに書いてみました^^。

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