2009/06/29

青春というひどい時代

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最近は仕事から帰ってきてパソコンの電源を入れると、画面が立ち上がるまでの間デッキチェアでちくま日本文学の内田百閒を読むのが習慣である。その本の後半に「無恒債者無恒心」という短編がある。百閒先生の貧乏譚である。

読み進むうちに貧乏つながりで、ある話の断片が浮かんできた。
何しろぼんやりとしか浮かんでこないが、浮かんでくる断片を順番に書き上げていくと、それは確か大晦日の話で、やはり借金にまつわる話であり、武士が主人公の話だった。たしか井原西鶴。

ようやく立ち上がったパソコンで、グーグル検索をする。
「井原西鶴、大晦日、借金」で調べたが釣れない。
そのうちに小判一両にまつわる話だったことを思い出す。
「井原西鶴、武士、一両」で検索したら「大晦日あわぬ算用」に行き当たる。
ああ、これこれ。

でもネットで原文を読んでもぴんと来ない。内容は一致するが文章が、違う。
さらに「大晦日あわぬ算用」で検索しているうちに「太宰治」の名前が。
そうだ。太宰だ。
本棚の奥から新潮文庫の「お伽草子」を出してきてぱらぱらと目次を繰る。
その中の新釈諸国噺の第一話「貧の意地」。おお、これだ。
すぐに読み直す。あんまりおかしくて、一人でくすくす笑う。

僕の高校時代は、真夜中にたった一人でマネキン工場に閉じこめられたような孤独感と、剥がれた皮膚のまま泥の中を転がりまわるような過剰な自意識のために、笑ってしまうほど酷い時代だったけど、とりわけ酷い絶望のずんどこに落ちた時の命綱は太宰の「人間失格」だった。
僕は底なしの絶望に陥ると決まって人間失格を読んだ。
人間失格を読むことで、底なしの絶望に底板が出来て、その底板を踏むともう一度水面に出ることが出来たのだ。

でもこの本はいざというときのための命綱に取っておかないといけないので(笑)、普段はもっと軽いものを読んでいて、「お伽草子」や、「きりぎりす」や、「新樹の言葉」なんかをよく読んでいた。

太宰の強い魅力は「走れメロス」などに見られる息せき切って畳みかけてくる語りの見事さと、自虐的なアイロニーと、落語に通じる笑いと、ヒリヒリするような皮膚感覚で描写される恥の感覚と、息苦しいほど精いっぱい切望する救いと、尊いものに対する強いあこがれと、と書いてみてこれは青春そのものじゃないかと思った。太宰ってRock'n'rollerだったのか。


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ほんとに。
あの酷い時代を生き延びることが出来たのは、太宰と、安吾と、ビートルズやジミヘンやジャニス・ジョプリンなんかのおかげだったよなとつくづく思う。


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6 件のコメント:

  1. とかげ6/29/2009

    私も。本と映画と音楽がなかったら、死ぬことばかり考えていたかもしれません。
    それらがあって、大人になった今も生きていられる。

    最後の写真が好き。眺めながら考え事をしたいな。
    あr、ジャニス・ジョプリンの「BYE BYE BABY」が頭の中でなりだした。
    今夜は寝るまでなりっぱなしだわ。(笑)

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  2. BYE BYE BABYいいですね。
    僕はやっぱりSummertimeかな。
    http://www.youtube.com/watch?v=mzNEgcqWDG4

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  3. 匿名6/30/2009

    この中に私の大好きな人もいます

    ビートルズ、ジミヘン、太宰
    太宰は長い間嫌いだったけど 多分人物は今も好きじゃないけど作品はとても好きになりました

    3つも同じ好きなものがあるってうれしいなぁ♪

                    yuuko

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  4. なんとyuukoさんもジミヘン好きだったとは!
    ジミヘン好きの女の子って、希少価値です。
    >太宰は長い間嫌いだったけど・・・
    うん。個人的につきあいたいタイプじゃないですね。
    たしかに。

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  5. 匿名7/01/2009

    女の子・・・ ギャハッ!!!☆

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  6. 誰ですか?はしゃいでるのは。(^_^)。

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