2010/04/30

アフォリズム No.2

Always examine the part that hurts. Put your hand on the area.

examineというのは、詳しく調べるという意味。
直訳すれば
痛む場所を常に詳しく調べなさい。あなたの手をそこに当ててみなさい。

ごく当たり前のことだ。
そんなわかりきったことを、なぜあえて書くのか。
もしあなたが医者なら、それが必ずしも当たり前ではないことを知っているだろう。

医者は患者の訴えを聴きながら何を考えているのか。
それはある種の連想ゲームに似ている。
パエリア、セルバンテス、サグラダ・ファミリアと聞いてスペインを連想するように
医師はいくつかのキーワードに共通する疾患を連想する。

だが患者の訴えは多岐にわたる。
それら全てが今患者を悩ませている特定の疾患を指し示しているのではない。
洪水のあと滔々と目の前の河を流れていく椅子や机やその他諸々の家具のなかから
医者は判断の材料になる家具だけを河から引きあげていく。
そして疾患名の目星が付いたら、その疾患に特有の徴候がないかを直接患者から聴き出したり、患者の身体を見たり触ったりして確かめる。

問題は、医師が「わかった」と思ったあとなのだ。
わかってしまったあとでは、何が河を流れていこうと医師はそれを河から引き上げない。
たとえ河をイタリアの国旗が流れていこうとも、スペインはスペインなのだ。

そして、えてして最も重要な情報は患者が診察室をあとにする直前に発せられる。必ず。
「そういえば数日前から右の腰のあたりが少し痛むんです」
医者はキーボードを叩きながらこう言う。
「わかりました。湿布を出しておきましょう」

ああ、我々はこれで何度痛い目にあったことか。

患者が痛いという場所は、必ずそこを手で触って確認しなければならない。
手で触るためには、そこにある衣類をどけて、まずそこを見なければならない。
胸痛を主訴に来院した患者に、あなたが心電図と心エコーと採血をオーダーする前にそこを見れば
わずかな発疹を発見して初期の帯状疱疹だと判断できるかもしれない。
痛みを訴える老人の膝を触れば、その熱感と腫脹から偽痛風と診断が付くかもしれない。

だがそれらはすべて見て、触ることからしか始まらない。
そして我々がそこを見ず、触りもしない理由は同業の故に痛いほどわかるのだが、
それゆえにこそこれは守るべきルールのひとつなのだ。





3 件のコメント:

  1. yuuko5/02/2010

    触って診てださるお医者さんの少ないこと
    お医者さんと患者 
    やはり信頼関係が先ず第一だと思います

    私がもし大腸がんの疑いがあるといわれたら shinさんのところに検査していただきに行こうと思ってるんですよ~
    どうぞよろしく!!

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  2. 匿名5/02/2010

    うんだ

    ワシも大腸がん予備役なので、そんだらときはオネゲエ申し上げます

    いま、診察室で見るお医者さんって、患者のほう向いてないでパソコンやらモニターやらばかり見ているなって思ってます

    診るって見るってことなんじゃないのなんて思うんだよお

    とーし

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  3. yuukoさん、とーしさんありがとうございます。
    以前僕が外来で診察している時に
    少し離れた診察室から患者さんの怒鳴り声が聞こえてきました。

    ほどなく看護婦さんが僕に収拾を依頼してきました。
    僕はその患者さんを僕の診察室に連れてきてもらい
    事情を聞いて患者さんに謝罪しいつもどおり診察を始めました。
    するとその患者さんは驚いた顔をしてこう言ったのです。
    「先生、私はこの病院に3年間通っていますが、聴診器をあててもらったのは今日が初めてです」

    それを聞いて僕も絶句してしまいました。
    患者さんは先ほどとはうって変わってうれしい顔になり
    なごやかな雰囲気のまま診察を終えることが出来ました。

    いまも僕はこの出来事を思い出します。
    それは僕に聴診器をあてることの意味を考えさせてくれたからです。

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