2013/02/19

未来の時間を取り戻す男の物語



夕べBSでウィル・スミスの「幸せのちから(原題:The Pursuit of Happyness)」を観た。
主人公はある貧乏な黒人男性。
彼は一発当てるためにほとんど全財産をはたいて
サンフランシスコにおけるポータブル骨塩量測定器の独占販売権を取得する。
だが案に相違して機器はほとんど売れず生活は困窮を極める。
心身ともに疲れ果てた妻は彼の元を去り、アパートも追い出され、
息子とともにホームレス生活をしながら証券会社の研修プログラムを勝ち抜いて正社員となり
やがて全米屈指の証券会社を造り上げる。

ありふれたアメリカンドリームの物語だが
家族を窮乏から救い出すための彼の懸命の努力は全て裏目に出て
さらにこれでもかと繰り返し彼を襲う不運にもめげず
捨て鉢にもならず明るく前向きにユーモアを失わず必死に努力する彼も
映画の終盤には目も虚ろになり、精神に異常をきたしたかと心配するほど追い詰められたあと
ついに扉が開く。
彼の、真っ赤に充血した目から涙が流れるシーンは深く心を打つ。

この映画の中で不思議な印象を与えるのが、あの骨塩量測定器である。
ミシンのケースよりひと回り大きなその機器を彼は映画の中で常に持ち歩く。
老いた浮浪者に二度も盗まれ、車に跳ね飛ばされながら
文字通り彼は命懸けでその機器を取り戻そうとする。
「ジミヘンがギターを燃やすのを見たいんだ」と老浮浪者(ヒッピー)はいう。
彼はそれを「タイムマシン」と思い込んでいるのだ。
だが主人公にとっては1台売れれば一ヶ月の生活費を稼げる大切な商品だ。

売れる見込みのない機器の在庫を抱えた男。
その機器は、主人公の妻と映画の観客にとっては主人公の愚かさの象徴であり
老ヒッピーにとっては過去に戻るためのタイムマシンである。
ではあれは主人公にとって何の象徴だったのか。
なぜ彼は命を懸けてまであの装置を取り返さなければならなかったのか。
まるでそれを中心にして主人公を含むすべての登場人物が配置されているかのようなあの骨塩量測定器とは何なのか。

それを解く鍵は老ヒッピーのタイムマシンという言葉だろう。
主人公は映画の中で常に時間(お金)とせめぎ合っている。
未来の顧客との面会時間に間に合うために街中を走り回り
返済の時間切れでアパートを追い出され、託児所に迎えにいく時間がないため妻に泣きつき、
教会の無料宿泊所の応募に間に合うためにバス待ちの列に割り込んで怒鳴られ、
納税期限が切れてなけなしの全財産を差し押さえされ、
研修プログラムの応募に間に合うために警察の拘置所から全速力で走る。
まるで未来に追いつこうとするかのように。

最後の骨塩量測定器が売れたのと未来の扉が開くのが同時なのも印象的だ。
たくさんあった骨塩量測定器(タイムマシン)は遠い未来の暗喩であり
最後の一台が売れた時にようやく彼は未来に追いついたのかもしれない。


4 件のコメント:

  1. 骨塩量測定器とは如何なる場合に用いる機器なのでしょうか。

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  2. chinさんありがとうございます。
    歳を取ると骨粗しょう症といって骨がスカスカになっていくわけですが
    この機器で測定すると骨の老化度がわかるわけですね。

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  3. これ,米国で最後に買ったDVDです.
    トイレで一夜明かすシーンが忘れられません.

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  4. とど2号さんありがとうございます。
    僕の拙い記憶によれば主人公はこの映画の中で2回だけ涙を流すのですが
    最後に就職がかなった時と、あのトイレのシーンだったですよね。
    誇張でも何でもない主人公のやるせなさと悔しさが
    まるでその場で同じ体験をしているように伝わってきました。
    主人公の妻もよかった。

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