2009/08/28

『男の人とうまくつきあう方法』

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「ひとつ、村上さんでやってみるか」というのは、読者からの490の質問のそれぞれに村上春樹が個人的に返事をするという質疑応答集ですが、
その中にはある女性からの『男の人とうまくつきあう方法』というのがあります。
この女性は別に男性問題で悩んでいるわけではなくて、村上春樹が稀に開陳する人生を渡っていく上でのちょっとしたヒントが特に気に入っていて、
彼が以前披瀝した『女の子とうまくつきあう方法』の逆バージョンでこの質問をしたというわけです。

村上春樹はこの質問に対しこう答えています。
簡単です。男の抱いている妄想を満たしてあげればいいのです。
男という生き物は、ほとんど妄想に基づいて生きています。でもおおかたの女性はその事実を理解していません。
というのは、女性の大半はとても現実的で効率的な人生を送っていますし、そこでは妄想などというものはほとんど効力を発揮しないからです。
(中略)まず第一に彼の性的妄想を理解することです。第二に彼の社会的妄想を理解することです。第三に彼の個人的、片偶的な妄想を理解することです


文体というものは、それを書いた人がその説文をどの程度確信して述べているかを僕たちに伝えてくれますが、村上春樹はこの件に関してほとんど迷いがありません。
僕は例によってお風呂でぼんやりこの箇所を読んでいて、彼が述べた内容もさることながら、
その語り口調から彼がこれまで経験してきた男女間の感情の齟齬の歴史と、そこから得た彼の確信の度合いに打たれました。
それは僕自身の拙い男女間の感情の歴史からも深く共鳴できるものだったからです。

さて、それから僕は彼が述べている男性を理解するための三つの妄想について、ぼんやり考えていました。
性的な妄想と、社会的な妄想と、個人的な妄想について。

女性が男性の性的な妄想を満たしてあげるには、その男性が喜ぶように、
例えば思いっきり甘えてあげたり、甘えさせてあげたり、いたぶってあげたり、じらせてあげたり、縛ってあげたり(笑)するわけですよね。
社会的妄想を満たしてあげるには、具体的には男性の有能さを賞賛するわけだけど、
例えば所属する組織の中で彼がいかにかけがえのない存在かをアピールしたり、社会的常識についての蔵志の深さに感心したり、
彼がどれほどカリスマ的な指導力を持っているかをウットリするような目で見つめながら称えたりしてあげるわけですね。
個人的な妄想を満たしてあげる場合にはどうするかというと、具体的には彼の自己イメージを愛すべきものとしてなぞることになるわけですが、
例えば「あなたってすごく悪ぶってるけど、ほんとはすごく優しい人なのね♡」とか、
「あなたってみんなにとても人気があるけど、このあいだひとりぼっちの時のあなたを見てわたしわかったの。あなたはすごく孤独。」とか言うわけです(笑)。

妄想にもいろいろあるけれど、彼があえて採り上げたこれら三つの妄想は、もう少し普遍的な概念に言い替えることは出来ないでしょうか。
性的な妄想というのは女性にまつわる妄想で、母的なものと関係がありそうな気がするし、
社会的な妄想というのはシステム的なもの、父的なものと関係がありそうな気がする。
個人的な妄想というのは、彼が彼のバーチャル世界の中で自分を見る時のミラーイメージで、彼がかぶっている(自分を喜ばせるための)イメージなんだろうな。
つまりこの三つの妄想世界というのは、「父」と「母」と「自分」という、三つのロールプレイング劇場というふうに言い替えることが出来るかもしれない。

男性はこれら三つの劇場の中を生きており、男性を喜ばせるためには、「母」の承認、「父」の承認、「自分」の承認という、三つの劇場で承認を受けることがポイントなのでしょう。
「ぶりっこ」というのは男性のロールプレイングゲームに自らすすんで参加してくれる女性たちです。
ぶりっこでない女性たちは、男性がこういった三つの妄想世界を生きているということを知らないので、
なぜ世の男性たちが、同性から見て明らかな「ぶりっこ」に惹かれるのか理解できないし、
そもそもそういった妄想世界をハナから馬鹿にしているので(笑)、なかなか自分からその劇に参加して役割を担おうとは思わないのでしょう。

でもひょっとすると男性は、劇を通じてしか女性を愛せないのかもしれません。
村上春樹はその返事の中でこのように述べています。
ほとんどの女性は、妄想というものの機能を本当には把握できていない。
それこそが世界の恒久的な平和を損なっている、もっとも大きな要因ではあるまいかと僕は考えています。
今度そういうテーマで国連総会で演説をしようと思っています。というのはもちろん嘘です。いちいち断るまでもないでしょうが
。」

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2 件のコメント:

  1. SNOOPY9/01/2009

    とても考えさせられました。
    これからの人生だんなと楽しく暮らしていくには、劇に参加しなければならないのでしょうか?私には一生理解できないことのようです。男と女は別の世界に生きてるんですね。

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  2. >SNOOPYさん。
    まあ、劇に参加するかしないかはともかく、彼が劇の中を生きているということを知っておくだけでもだいぶ違ってくると思います(笑)。
    参加しなければならないというよりも、たまには参加してあげてもいいかなというスタンスはどうでしょう。

    性別の違いをことさら荒立てるのもどうかとは思いますが、男性と女性の違いというのは、すでに僕たちの頭の中の既成事実として厳然として存在するので、そこから話を始めざるを得ないような気もします。

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