僕が中学生の時は高校受験のため深夜までラジオを聴きながら勉強した。
当時はテレビは言うに及ばずラジオも真空管で
父親が職場の同僚からもらってきた古いラジオは
うしろのパネルがなかったので中が丸見えだった。
薄汚れたラジオは電源を入れてしばらくすると
真空管が熱くなって電気の焼ける臭いがした。
20年前から使っているオンキョーのA922というアンプの調子が悪い。
そろそろ新しいのが欲しくなってこの三連休はどこにも行かずにネットでいろいろ調べていた。
今使っているアンプは普通に音が出ていたし何も困ってはいなかったけれど
以前はあれだけ好きだった音楽が永く聴けなくなってしまったのは
歳をとったせいかもしれないがそれだけではないような気もする。
真空管アンプというものがあることは知っている。暖かい音がするらしい。
僕は元来買い物が下手で、着るものを買いに行くとすぐに根(コン)がなくなって
もうなんでもいいやと適当なものを買ってあとで後悔する。
店員さんの口車に乗せられやすいのは彼らの口上がむしろ救いの船だからで
それは僕がその場から早く逃れたいからだ。
視聴に行ったらまたいつものように舞い上がって
冷静な判断もできないまま真空管アンプを買ってあとで後悔するにきまっている。
そうしたらたまたま
ネットで
アナログとデジタルと真空管のアンプを聴き比べているのをみつけた。
聴き比べるったって、最後はどれもPC経由で聴くんだから
どれほどの意味があるんだろうかと思いながら目をつむって音だけを頼りに聴いてみたら
ボーカル編、ヴィブラフォン編、サックス編、ピアノ編、ストリングス編、オーケストラ編のすべてで
どれがアナログでどれがデジタルでどれが真空管かが全部正解してしまった。
多分それはまぐれだけど、ただ6つのジャンルのほとんどで
自分の好きな音は真空管だったということは、疑いようもなくはっきりした。
それで決心がついた。
三連休の殆ど、夜も午前3時までネットであれこれ調べて
価格や音の特徴や拡張性や評判や見た目などで選んだのが
トライオード社のTRV-35SE。それといっしょにDENONのSACDプレーヤーのDCD-1500RESPも購入。
これがベストではないかもしれないけれど僕自身はうん、とても気に入りました。
このアンプは真空管としての特徴が薄くてトランジスタアンプに近いらしいけど
高音・中音・低音のバランスが良くて、期待したとおり聴き疲れないwarm heartedな音がします。
熱くなった真空管に顔を近づけると中学生の時に嗅いだ、あの電気の焼ける匂いがする。
音楽に込められたたくさんの音に、以前は気が付かなかった。
それはCDプレーヤーが新しくなったことも関係しているかもしれないけれど
なんだか僕はちょっと、幸せな気分になってしまった。