2008/01/07

匂い


小学生の時に読んだドリトル先生シリーズの、たぶん「アフリカ行き」だったと思うけど、ドリトル先生が行方不明になった子供を探すために動物たちと航海に出ます。ドリトル先生の飼い犬が船の舳先に鼻を突き出して、漂ってくる匂いを次々に解読していきます。「どこかでパイを焼く匂い、子供が泣いている、お母さんがおむつを替えている、どこかで雨が降っている・・・・・・・」うろ覚えですが、そんな内容だったと思います。
僕の犬も散歩の時に近所の犬のおしっこの跡を熱心に嗅ぎます。むかし犬が電信柱におしっこをするのは自分の陣地を主張するためだという説明を聞いたことがあるけれど、少なくとも彼の行動を見る限りそんな陣取りみたいな雑な行為とは思えない。もっとデリケートなことをやっている気がします。
彼は時間をかけてじっくりと匂いを嗅いだあとで、そこに自分のおしっこを重ねます。彼がやっている行為は、僕にはどうしても「会話」に見える。ほかの犬の匂いには様々な情報が含まれていて、手紙を読むように彼はそれを「読んでいる」のではないか。
「三丁目のチワワはとんでもない女だぜ、あいつに関わるとろくなことはないからやめとけ。俺もこないだひどい目にあったんだ」「言っとくけど二丁目のプードルは僕の彼女だからね」「この坂の上で飼われてる老いぼれのラブラドール、あのじいさんもう永くないと思うな」「おいらの亭主は機嫌のいいときに牛乳を飲ませてくれるんだ。あれはうまいね」そしてたっぷり匂いを嗅いだ後で自分の尿をそこに重ねるのは、読んだメールに返事を書いているのではないだろうか。「ジップ君、おひさしぶり。きみ、最近いいもの食べてるね、匂いで丸わかり。いいな~。今日はおいらもご主人におねだりしてみるよ」
Gary LarsonのFar Sideというアメリカの一こま漫画に、ついに犬語翻訳に成功した科学者が期待に胸をふくらませて翻訳ヘルメットをかぶって街へ出たら、犬の言葉は全て「Hey(おいこら) !!」だったというのがあります。うちの犬も鳴き声によるボキャブラリーもそれほど多くはない。「おーい」「おい」「ねえ」「はやく」「もっと」「おなかがすいた」「痛い」「なんだい、やるのかよ、いい根性してるじゃないか」。こんなもんでしょうか。もっとあるのかもしれませんが、少なくとも発声を積極的にコミュニケーションに使っているようには思えません。犬の嗅覚は人間の100万倍といいますから、彼等は匂いという手紙でたっぷり会話しているのかもしれませんね。

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