2017/07/04

折にふれなば

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庄司薫氏の「白鳥の歌なんか聞こえない」には「折にふれなば何事かこころ動かさざらん」という一句がある。
あらゆる事を知り尽くしつつ何も生み出さないまま人生を終えることを由とする友人横田君の立場を擁護するための話のきっかけに薫君が引用したのがこの句なのだが、この句の意味を知らない読者は薫君の以後の話の意図を追いかけられなくなる。

僕も意味がわからなかったのでJapanKnowledgeで調べてみたが出典不明。
ネットで検索してみると奥さんの中村紘子さんが2003年のNHK人間講座「国際コンクールの光と影」で同句を引用されていることがわかったので(つまりご夫婦の間では当然この句の意味を共有しつつごく自然に日常会話にこの句が盛り込まれていたことが容易に想像されるわけだが、そしてそれはなんと知的レベルの高いご夫婦だったことだろう!)、それで僕もわざわざ同書を取り寄せてみたがやっぱりスッキリしない。僕は古文は苦手だけど自分で解釈してみることにした。

「折に触れて」は「機会あるごとに」という意味だから「何らかの機会も無ければどうして心動かされようか」、転じて「ひとが何かに心を動かされるのはやはり何かのきっかけがあってこそだ」、あるいは「きっかけ次第でひとはどんなことにでも心動かされうるものだ」、さらに砕けて言えば「蓼食う虫も好き好き」というほどの意味か。

そうすると、それはつまり小説の本文に戻れば、慌てず騒がず飄々と生きているようにみえる横田君が実は「死に急いでいる」という深刻な事情を彼自身の口から聞いてしまったことで、彼の一見楽天的に見える生き方を無碍に否定できない、つまり「折にふれなば何事かこころ動かさざらん」という訳なのだ。

あとはこの句の出典が明らかになればすっきりするのだが、本居宣長あたりだろうか。どなたかご存じですか?














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