僕が小学生の頃は月のクレーターがどのようにして出来たかはまだよくわかっていなかった。
だから理科の教科書には阿蘇山の火口とアリゾナの隕石で出来たクレーターの二つの写真が載っていた。授業でもこれは僕達の間で議論となり、僕は圧倒的に隕石説を支持した。月の表面が大小無数の火口で覆われているのは変じゃないか。
やがてアポロが月面の写真を撮ってきた。それを見ると宇宙飛行士の歩く月面には直径数メートルのクレーターが多発していて、その中には手のひらに収まるようなかわいいクレーターも写っている。これで火山の火口でないことははっきりした。やっぱり隕石のぶつかった後なんだ。
でも隕石というのはすごい勢いでぶつかるから、こんな小さなクレーターが出来るはずがない。これっていったいどういうわけだろう。
それにあんなに無数の隕石がぶつかった跡があるなら、今でも時々月に隕石がぶつかってもいいじゃないか。でも月に隕石がぶつかった話は聞いたことがない。最近は月に隕石がぶつからないのか。
その後僕の推理は停止したまま何年もの月日が経過し、でも僕は忘れたわけではなく、月の謎として僕の記憶の片隅にずっと残っていた。
そしてある日僕は巨大衝突説というのを耳にする。
地球が出来て間もない頃、火星くらいの大きさの天体が宇宙の彼方から飛んできて地球にぶつかった。その破片は地球の周囲の宇宙空間に飛び散り、地球のまわりをドーナツ状に周回した。その破片の中で大きなものは、引力でまわりの破片を集め始める。大きな破片どうしが互いの引力で結合し、どんどん大きくなる。大きくなるにつれて周囲の小さな破片をどんどん集め始める。
それが月の正体。
つまり月は地球の破片たちが静かに集合して出来た天体なのだ。
月はまわりの破片を大昔にもう全部集めてしまって、今はもう漂っている破片はないんだ。だから最近は新たなクレーターは出来ないんだ。なぜなら月はもう大昔に出来上がってしまったからだ。月の表面が無数のクレーターで覆われているのは、月に無数の隕石が落ちたのではなくて、無数の破片が落ちて出来たのが月だからだ。だからその表面は破片が落下した跡で覆われているのだ。月は引力が弱いから、落ちてくる破片もゆっくり月にぶつかる。だから小さな破片は小さなかわいいクレーターを作るのだ。
こうしてこの説は長い間僕の中で宿題になっていた疑問をきれいに説明してくれた。
僕はとても興奮して、ひとりで、そうか!そうだったのか。と何度も呟いた。
でも僕のまわりでは誰も興奮していなかったし、この話をほかの人にしてもあまり感動を共有してくれる人はいない。どうして?
おーい、みんなどうして興奮しないんだー。
写真は「FULL MOON」 新潮社より。


