あれは僕が高校一年の休み時間だっただろうか。廊下側の壁に背を向けて座っていた男子同級生が、「ああ、燃えるような恋がしたいなあ」と言ったのだ。
ざわめいていた教室はしーんと静まりかえって、次の瞬間クラスの全員が爆笑した。彼はちょっと夢見がちなところのある目立たない生徒だったが、みんなに笑われて赤くなっていた。
僕も真っ先に爆笑した一人だった。その当時の僕にとって、「恋」はオリオン星雲より遠く、無関心というよりも、むしろ「あんなもの」でしかなかった。男のくせに、何を言ってるんだ。頭がおかしいんじゃないか。
それから10年くらいたって、僕はようやく彼の発言の意味を深く理解した。軽蔑していたあの「恋」の森に、僕も深く入り込んでしまったのだ。
最近になって、ふと僕は気が付く。
いつの間にか僕は自分が森からずいぶん遠い所にいることに。
別に寂しくもないが、なんだか懐かしい。
清水君、あのときは笑ったりしてごめんね。
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