2022/07/01

マイクロコントラスト

 




海外のサイトを見ているとZeissのレンズはcolor renderingがよいとかmicro contrastに優れているという表現をしばしば目にする。
color renderingは直訳すれば色表現のことなので、じゃあなにか?Zeissは彩度が高めだけどそれ以外のレンズは彩度が低いって事か?と食って掛かるヒトもいるかもしれないが、おそらくcolorをrenderするという言葉には単純に彩度のことだけを言っているのではないだろう。これから述べるmicro contrastについてもそうだが、とかく写真にまつわる感覚表現には曖昧さがつきまとう。話者が何を評価の指標にしているのかがわかりにくく、対話の基礎となる言葉の意味の定義を決めないまま表現だけが一人歩きしがちなのだ。

Googleで"What is micro contrast?"とキーを打つとトップに上がってくるのはDPReviewというサイトの質疑応答フォーラムだ(リンク)。Jack Lamさんの質問に対し61人が回答を寄せている。面白そうな議論なのでとりあえず質問者の箇所だけを訳してみよう。(私はプロの翻訳家ではないのでいろいろ間違っていると思う。それでもかまわないとおっしゃる方だけ読み進めてください)。

《質問者》
私はレンズの特徴や好みについて探求しているが、最近いよいよマイクロコントラストというのがわからなくなってきた。これは実に議論紛糾するテーマだ。
それは究極のレンズ特性で高品質のレンズの持つ聖杯のようなものだという人もあれば、いやいや、マイクロコントラストなどという曖昧な概念はもっと正確な科学的記述に置き換わるべき「まやかし」だと言う人もいる。
面白いのは我々の誰一人としてマイクロコントラストの正確な定義を持っていないらしいということだ。多くの人がそれは測定不可能だという。彼らが言うにはマイクロコントラストというのはただのコントラストやシャープさや解像度ではなくて、明部から暗部への美しく精緻なトーンの移行のことだと。またあるひとはマイクロコントラストを禅のようなものと考えており、それは数値化できるものではなく何か感覚の世界でしか捉えられないものだと主張している。それは特別な魔性の力だ。フォースだ。見分ける力を持ったものにしかわからないと。
そこで質問者はこの言葉の定義のコンセンサスを得るためにブラインドテストをやればいいだろうと考えて10種類のレンズで同一条件で同一被写体を撮影しどの写真が一番マイクロコントラストがあるか回答を求めたのだが、やっぱり議論百出で素直に点数を提示した人は僅かだった。

その中に一人thomasluxというひとがこの言葉の概念をきちんと定義しているサイトを紹介しており(リンク)、そこではある文字列を使ってシャープネスとマイクロコントラストのあるなしについて説明しているのだが、そのサイトの筆者によれば、
"Microcontrast is the ability for one area of the image to maintain strong tonal variation relative to the adjacent areas of the image."

拙訳(マイクロコントラストとは)「ある区画が隣接する区画よりも階調の多様性を強く維持していること」と述べている。その文字列の例では通常のコントラストとマイクロコントラストの違いがわかりにくいが、ページの下の方でSigma DP3 MerrillとSony A7R2で撮った女性の目の写真の比較で彼の言わんとすることがはっきりする。いずれの写真もシャープネスは高いのだがSigmaのほうが隣り合うまつ毛の分離がよい。まつ毛とまつ毛でないところの階調の多様性が維持されていて、結果としてまつ毛が分離しているというわけだ。

つまりマイクロコントラストというのは、局所に於ける階調の分離能のことらしい。
で、これが維持された状態をマクロレベルで見たときにどうなるか。
ミクロレベルで階調の分離が維持されていればマクロレベルで見てもトーンがなだらかに移行していくだろう。階調移行のスムーズさが生まれる。
で、ここで誤解が生まれる。ボケの問題だ。

ボケが大きい写真は階調移行がスムーズな気がする。くっきりしたものにガウスボケをかけるとぼんやりして階調がスムーズに移行しているように見える。だが、ただボケているだけでは隣接する区画よりも階調の多様性が維持されているとは言えない。むしろボケにおいてはミクロレベルでの細かな階調の変化が失われているのだ(※)。

つまり!マイクロコントラストがある写真と、ただボケている写真の両者は、階調移行がスムーズに「見える」という点で一致しているために、分離能の悪いレンズなのにボケが溶けたバターのようにスムーズだという評価が生まれる可能性がある。豊かな階調の移行が見る人に快感をもたらすので「
特別な魔性の力だ。フォースだ。見分ける力を持ったものにしかわからない」といったマジックな印象が一人歩きするのだろう。

ではさっきのSigma DP3 MerrillとSony A7R2でマイクロコントラストに差が出たのはなぜなのだろう。画素数が大きければよりマイクロコントラストが得られやすくなるのではないかと思うかもしれないが、いずれの写真もクロップ後で、前者は59メガピクセル、後者は42メガピクセルで画素数にそれほど差はない。また最後に載せたSigmaの写真が15メガピクセルしかないのだが、低画素のためにシャープネスは落ちてもマイクロコントラストが維持されていることから筆者は画素数の関与について否定的な立場を取っている。



(※):これを個人的に実感するのは画像のトーンジャンプを目立たなくしようとして部分的にガウスボケをかけてもトーンジャンプが残ってしまう現象。これはジャンプしてる区画同士の階調のバリエーションは
ガウスボケでは復活させることが出来ないということを端的に表している。







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