2011/05/04

ようやく結論?(万年筆篇)

P5039790

今日ペリカン M800 イタリックライティングというペンが届いた。
思えば1年以上前から縦太横細の字を書きたいという妙な思いに囚われて
都合5本もの万年筆に手をつけてきた。
ばかである。

まず最初に買ったのがモンブラン。
縦太横細ならモンブラン149のBBというネット情報で購入したが
実際手に入れた149は縦と横で殆ど線の太さが変わらなかった。
これはのちに川窪万年筆でペン先を研いでもらうことになる。

やがてどうやらスタブとかミュージックとかいう種類のペン先が僕の求めているものだと分かり
購入したのがプラチナ極太字#3776 ミュージックというペンで
たしかになめらかに縦太横細が書けるけれどもペン軸があまりに細くて軽い。
やはりこの、万年筆というのはある程度太くて重くなければどうにも頼りない。
仕方ない。このペンにはパイロットの赤インクを入れて職場でデータチェックの書き込みに使うことにしよう。

ついで手に入れたのがプロギアスリム ミュージック(趣味の文具箱とセーラーのコラボ)である。
ある日梅田のナガサワで開かれていたペンクリニックを訪れた。
順番までの長い待ち時間にいろんなペンの試し書きをした。
僕のプラチナミュージックはペン先の切り割りが2本だが、セーラーのミュージックは切り割りが1本なので
あまり期待もせずに試してみたら思いのほかフローが潤沢なことに驚き
その日の夜に趣味の文具箱のオンラインショップで注文した。
このペンはたしかに縦太横細でフローも良いがやはり持ちでが少し頼りない。
プロギアスリムにせずプロフィットスタンダードのミュージックニブにすればよかった。
書き味はカリカリした感じ。

4本目は中屋ライターのミュージック。
またしてもミュージックである(嘆息)。
中屋はプラチナのペン先をベースに漆などを使った良質なペン軸の製品を作っているお店だ。
2本目に買ったプラチナ#3776ミュージックがもう少し太くて持ちでがあればいいのにという思いに期待して購入。
これはさすがに高級な万年筆だった。
書き味もプラチナ#3776ミュージックより滑らかで書いていて気持ちいいが、フローがやや渋い。
僕は興に乗ると可成りな速度でペンを走らせるが、そうするとインクの濃度が次第に薄くなってくる。
筆記の速度にインクのフローが追いついていないのだ。
これは今ペン先の調整に出している。

さていよいよ5本目が今回入手したペリカンM800イタリックライティングというペンである。
ペリカンは実はこれが2本目。1本目を買ったのは今から30年以上前だ。
当時京都で4年目の浪人生活を送っていた僕は、たまたま雑誌の広告に載っていた金属シリンダー型の細身のペリカン万年筆を目にした。
それは1979年の秋だった。
ペリカンであること以外何という銘柄かはわからなかったが
その万年筆は僕の目にとても特別なものとして映った。
もし大学に受かったら僕はあの万年筆を買うのだと決心した。
幸いその年にようやく僕は大学に合格し、京都の文房具屋でその万年筆を買った。
だが残念なことに大学の授業で使い始めるとすぐにそのペンが自分に向いていないことに気が付いた。
ペン軸がとても細くて持ちにくく、書き味もあまりよくなかったのだ。
さらに使い続けているうちに樹脂でできた首軸のネジの部分が割れて取れてしまった。
あれは何という種類だったんだろう。ネットで調べてみたがわからない。(*)
それが最初のペリカンだった。

今回懲りもせずペリカンを買うことになったのは、
「趣味の文具箱」vol.18のまさに縦太横細の特集にそのペンの記事があったからだ。
最近丸研ぎ傾向のペリカンの中であえて平研ぎにこだわってカリグラフィーのような縦太横細の筆致を実現しているとある。
昨年8月に限定100本をまたたくまに売り切り次回の入荷は今年の春とのことだった。
それが先日予定通りの再販になり、今日僕の手元にやって来た。

そのペンの書き味をどう表現しよう。
これまで僕が手にした万年筆の中で一番書き味がいいのは149だ。これはもう疑いようがない。
それは紙にあたるタッチのことなのだが、やわらかなげんこつでなでる感じとでも言えばいいのだろうか。
力強いのにあたりにクッションがある。そのクッションの収斂がよい。
だがペリカンM800イタリックライティングはその上を行く。
これはまるで天使が夜中に僕の部屋のドアをこっそりノックしているようだ。
何という優しいタッチだろう。
コシがあるのに柔らかい。
そのペン先がコツンコツンと紙にあたるクッションを、優しいタッチという以外に表現できないのがもどかしい。
僕はちょっと参ってしまった。
カメラ・レンズ遍歴がSTFで終了したように、万年筆遍歴はこれで終了かもしれない。


img015
Pelikan M800 Italic Broad with Pelikan 4001 Blue-Black Ink

ちょっとカリグラフィーっぽく書いてみました。

(*)Pelikan P560でした(後日判明)。

4 件のコメント:

  1. みゆ5/04/2011

     shinさん、よい休日をお過ごしでしょうか?
     大人の趣味ですねぇ、万年筆。
     私も頂き物のウォーターマンの万年筆とプラスチック製のものを時々使っていますが、なかなかshinさんほどには追求する感じにはなれていません。こだわりが心地よく伝わってきます。ミュージックって譜面を書くためのものなんですか?昔、手書き譜面をよく見る機会があったのですが、そういえばそういうペンで書かれていたように思います。
     この前(調べてみると4月21日でしたが)、NHKBSプレミアで放送されていた美の壺という番組で、「フォント」がテーマになっていました。いろんなものを鑑賞するポイントを挙げながら楽しむという番組で、文房具や家具、石、いろんなものがテーマに取り上げられます。
     shinさんの文章を読んでこのフォントが取り上げられた会http://www.nhk.or.jp/tsubo/program/file207.htmlを一気に思い出しました。
     shinさんはある意味、「フォント」を探しておられるのではないのかなぁ、、、と思い至ったのです。書き味や手に伝わる感触も大事なその要素ではあるのでしょうけど。

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  2. みゆさんありがとうございます。
    NHKの「美の壺」は僕もたまに見ますがためになりますね。
    そうか、フォントの特集があったんですね。
    見逃してしまいましたが貼ってくださったリンク先で確認できました。

    明朝体にしてもローマン体にしても縦太横細というのは人間が字を書くストロークを
    そのまま反映したユニバーサルな書体だったんですね。
    紹介されていた字体のアートではグラフィックデザイナー細谷巖さんの作品がとても魅力的に感じました。

    僕が初めてフォントに対する認識を改めたのは1991年発行のThe Macintosh Bible Third Edition(日本語版)で
    筆者のSharon Zardetto Akerという女性が87種類(!)ものフォントをそれぞれの字体で紹介している文章に出会ったときでした。
    その紹介の文章の一つ一つがとてもチャーミングで、例えば

    『Belweは、高級感のある華麗なフォントで、厳しい年貢を要求する荘園の主人に抗議を申し立てるのに使いたい気がします』とか

    『Chicagoはメニューやウィンドウのタイトルでいつも見慣れているために、このフォントがどれほど魅力的であるかを忘れてしまいがちです。
    このフォントは、Charles Bigelowという活字工芸の名人がMac専用に作成したもので、これまでのビットマップ・フォントの中で
    おそらく最も美しく、機能的なものでしょう。72dpiの限られたドット数を用いてこのようにきれいな書体が作られたことには、ただ驚くばかりです』とか

    『最後に、RockABillyです。これは、あなたの会社のマヨネーズにミシン油が入っていることを客に知られたくない場合に、
    ラベルの細かい印刷に使うと最適です。最高でしょ?』
    といった具合です。

    ペリカンM800についての文章は夕べ遅く、夜中に書いたのですが、
    今朝改めて書き味を試してみたら夕べとずいぶん印象が違っていて
    われながら驚くとともにがっかりしてしまいました。
    夜中に見境なく興奮して書いた文章はあてになりませんね。

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  3. またまたご無沙汰いたしております。
    素敵な万年筆ですね。
    昨晩と今朝では印象が変わってしまったようですが、
    カリグラフィーっぽい字体になるのは楽しそうです。

    今日は出かけたついでに
    モンブランとLAMYのカートリッジを買ってきたところでしたので
    勢いでコメントしちゃいました。(笑)

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  4. DIONさんありがとうございます。
    ネットでカリグラフィーののお手本を見つけたのでアルファベットの練習をしてみたんですが
    やはり専用のペンでないとあのタッチを出すのは少し難しそうです。

    >昨晩と今朝では印象が変わってしまった・・・
    うーん、書き出しがちょっと遅れるんです。
    ペリカンのブルーブラックインクの粘度が低いからなおさらかと思って
    セーラーの海松藍に換えたら改善しました。
    いまは村上春樹訳のグレート・ギャツビーを筆写しながら慣らし運転中です(^_^)。

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