2021/12/23

Lamy Dialog3のペン先乾燥問題


 僕はLamy Dialog3を2本持っている。1本目は7年前に買ったパラジウムでもう1本は2年前に買ったピアノホワイトだ。ニブの太さはどちらもB。それぞれに違う色のインクを入れて、パラジウムでしばらく書き込んだら休憩して今度はピアノホワイト再び書き始めるという使い方。

Lamy Dialog3の魅力はなんと言ってもその書き味のよさだ。腰があるのに柔らかい。タッチが絶妙なのだ。ほかのペンに浮気しても結局このペンに戻ってくるのはニブに秘密があるのだろう。そういえばほかのペンは使い始めに書き味のタッチがシックリしなくて調整に出したり自分でニブを研磨したりするのにDialog3に関しては買ってすぐにスラスラ使えてなんの問題も無い。おそらくニブの品質が高いレベルで維持されているのだろう。

さてそんなDialog3で唯一悩まされているのがペン先の乾燥問題だ。たまたまかもしれないがいずれのDialog3もペン先の乾燥問題に悩まされた。具体的にいうと書いたあとシャッターを閉じてペン先を格納し数分後に書こうとするともうインクが濃くなっている。数日置くと乾燥してまったく書けなくなるので洗浄という流れ。だからコンバーターにインクを満タンにしているとインクが丸々無駄になってしまうのでコンバーターにはいつもインクを少しだけ入れて適宜つぎ足すようにしている。パラジウムのほうはなぜかあるとき自然治癒したがピアノホワイトのほうは全く改善の兆しがないので保証期間内にメーカーにみてもらったら「異常ありません」と。うーん、困ったな。ほかの点では問題なくて気に入っているから、なんとかして自分で解決の糸口を見つけたいと思った。

僕は最初先端のシャッター機構に問題があるんじゃないかと思った。それで使ったあと先端の開口部にテープを貼ったり練り消しゴムで蓋をしたりしたがそれも面倒でやめてしまった。あるときふとピアノホワイトのシャッター部分を指で抑えて首軸のお尻から息を吹き込んでみたら空気が漏れるではないか。乾燥問題の無いパラジウムで同じ事をしてみたらこちらは全く空気が漏れない。
それでピアノホワイトの首軸の先を水に沈めてお尻から息を吹き込んでみたら
シャッター部分からのエアー漏れはないがクリップの付け根から泡が出てきた。


このDialog3というペンは軸を捻るとシャッターが開いてペン先が繰り出されるのだが、この操作に連動してクリップが浮き沈みする。ペン先を格納するためにシャッターを閉じるとクリップが浮いて胸ポケットにさしやすくなり、書き始めるためにシャッターをあけるとクリップが沈み込むという仕組みだ。よく考えついたものだ。ネットで検索しても内部構造の見取り図が見当たらないのでどういうカラクリかわからないがうまく作り込んだものだと感心する。しかしこのギミックがDialog3のアキレス腱かもしれない。クリップを浮き沈みさせるためにわずかとはいえクリップの付け根に隙間ができるからだ。Lamyよ技に溺れたか!?

クリップ部分の拡大写真。Aの左とBの左にクリップを支える柱状のものがある。この柱状のものが軸をひねるたびに上下する。だから上図の矢印のあたりに空気の漏れる隙間があるに違いない。

そこでAの右とBの右の隙間に細く切ったセロテープを挿し込んで貼ってみたり、隙間にオイルを塗ってみたりしたが空気の漏れは止まらなかった。
じゃあこの隙間そのものを埋めてしまおうとゼリー状アロンアルファを塗ってみたがダメだった。それで一旦あきらめて半年ほど経ったが、気を取り直して固まったアロンアルファをきれいに除去してから、そうか、ゼリー状ではわずかな隙間に入っていかないから普通の液状のアロンアルファならうまくいくかもしれないと考えてAの右とBの右の隙間に液状のアロンアルファをそれぞれ1滴ずつ染み込ませたら、なんと直後からエアー漏れがなくなり、そして以後僕はペン先乾燥問題から開放されて現在に至る。

じゃあこの方法を他のひとに勧めるかといえば微妙だ。クリップがペン軸本体に固着して可動性が失われクリップとして使えなくなるし、(これはちょっと考えにくいことだが)もしアロンアルファが軸の内部の歯車に染み込んでしまったら軸の回転機構がダメになってしまうだろう。だから、いやもう、ええねん!どないなってもええから問題を解決したい!メルカリで売れんでもかまへん!というひとは(僕は責任をもたないけど)トライしてみてください。健闘を祈ります。

さて、おそらくLamyとしてはこのペンの複雑な機構に伴う根本的な問題をきっと把握していると思う。世界中である一定数のペン先乾燥にまつわるクレームが、Lamyのもとに届いていると思う。シャッター機構だけで充分優れているんだから、クリップを連動させようなどと考えなければよかったのだ。おそらくLamy内部でもこの問題は何度も話し合われて、クリップ基部の隙間を別のパッキンに変更しようとか、いやもうクリップ機構はやめて改良版を出そうという意見も出ていただろう。しかしおそらくこのペンを開発したフランコ・クリヴィオ氏が首を縦に振らなかったのだ。「あのクリップの浮き沈みをシャッターの開閉に連動させるのにワシがどれほど苦労したと思ってるんだ!ああ、今でも思い出す。夜更けのお風呂でワシはまどろみながらあの機構を思いついたのだ。あれこそまさに悪魔のひらめきだ。いやーイカン!イカンイカンイカーン!クリップをやめるなど、ワシは断固反対だ!(あくまで想像です)」。

しかしクリヴィオ氏も寄る年波には勝てなかったのか、コロナ騒ぎのどさくさでスタッフが押し切ったのか、クリップのないLamy Dialog CCがもうすぐ発売になります。



かつてクリップのあった場所には小ぶりの出っ張りがあるがおそらくこれは転がり防止を兼ねたエンブレム。もう軸をひねっても浮き沈みしないだろう。ニブに変更がなければあの絶妙な書き味はそのままだろうし、なおかつ本体は軽くなってLamy Dialogシリーズとしてはほぼ完成の域に達したのではないだろうか。いやそれにしても美しい。

延期が続いている本品の発売はいつになるかわからないし(※)旧Dialog3の値崩れに誘惑されるひとも多いと思うが、乾燥問題のリスクを避けたいなら今しばらく辛抱してCC発売後の評価を待ったほうがいいかもしれない。


※→2021年7月の段階では海外ですでにプレオーダー受付が開始されているようです。




10 件のコメント:

  1. 丁寧な研究成果をありがとうございます。これを確かめるべくDialog3を、忠告にも関わらず、注文しました!
    実は引退後の暇つぶしにAsahiWeeklyを購読して気になる言い回しをJETSTREAMやPILOT FERMOで書き写しています。それでもすぐ忘れてしまうボケ老人ですがPILOTよりもニブの長い「書き味」のコメントが気になりました。さてどういう結末になるでしょうか。

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    1. ありがとうございます。私の書いた記事が沼の呼び水になっていなければと心配です(笑)。Dialog3はもう届いたでしょうか。Palladiumの軸はサラサラしているので乾燥した我々高齢者の指はすべって書きにくいかもしれません。僕はPalladiumの持ち手のところに3M スコッチ ビニール補修用テープを貼って使っています。老婆心ながらもし返品可能ならピアノホワイトかピアノブラックをお勧めします。

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    2. 明後日ピアノブラックが到着する予定です。おお怖っ。
      この入手によってボキャブラリーが増えると良いなぁ。

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    3. あさってですか。楽しみですね!ピアノブラックもいい色ですよね。うーん、羨ましいです。乾燥問題のない個体であることを祈ります。

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    4. 確かに書き始めのインクの色が濃くなりますね。一晩寝かしてから使ってみましたが問題なく書けて安心しました。これから他のペンに浮気したときの期間の長さによる不具合が出るかどうかですが今のところこのソフトな書き味に惚れているのでその心配はありません。
      まだこの軸の太さになれていませんが何の抵抗もなくぬらぬらと書けていくのは秀逸です。Twistメカニズムの歯切れのよさはPILOT FERMOの方が好みですがこのパーフェクトなデザインにはぞっこんです。

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    5. ありがとうございます。たしかにそうですね。最近思ったのは書き始めにインクが濃くなるのはエアー漏れのせいではなくチェンバー内の空気の容積が関係しているのではないかと。今僕はエアー漏れのない2本のDialog3を所有していますがそのいずれも書き始めにインクが濃くなります(笑)。
      パイロットのキャップレスシリーズはすべてノック式と思っていたのですがFERMOはツイスト式だったんですね。ちょっと興味が湧いてきました。いや、でもこれ以上常用の万年筆を増やすわけにはいかない。くわばらくわばら。

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    6. Lamy Dialog 3にはぞっこんです。本体が真鍮なので部屋の温度に応じてすぐ冷たくなってしまうのでポケットに入れて暖めています。秀吉が暖めていた信長の草履と一緒で使い始めが冷たいと嫌だなと思う気持ちです。毎日使っているので7時間ぐらい寝かしておいてもペン先の乾燥はありません。ただしインクの供給が減ってくると潤沢にインクが出ているときに比べ書き味も落ちてくるのでコンバーターをねじって強制的にインクを軽く押し出してやるとぬるっとした抵抗感の無い最高の書き味に戻ります。軸の太さとこの重さにはなかなかなじめませんがペン尾部の丸い加工を押し出しで作るための限界の直径なのかと思っています。私はこのペンをシガーと呼んでいます。3月頃の発売予定の改良型はだいぶコストダウンされているようなのでそれなりの値段にして欲しいですね。デザインは完璧なシガーには勝てないですからね。ご紹介ありがとうございました。

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    7. お役に立ててよかったです。
      CCの使用感もお待ちしています😉😄。

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    8. Slowhand7530さんの名Reviewに魅了されてLAMY dialog 3を使い始めて3ヶ月が立ちました。
      毎日使っているうちに今までの万年筆で一番書きやすいのではないかと思うようになりました。特にインクが潤沢に
      出ている状態でコクヨのCampusノートの表側(すべすべしている側)で書くときはヌルヌルとなんの抵抗もなく筆が止まりません。Slowhand7530さんがおっしゃるように出だしで書けない状態になることがありますがコンバーターをちょっと捻ってあげて
      インクを供給してあげると又快適にかけるようになります。この快適なニブが気になってリーズナブルな14金のLAMY アクセントと鉄ペン(?)のサファリを購入して書き味を比較してみました。
      順位は1位 ダイログ3(Mニブ)、2位はなんと鉄ペンのサファリ(B)、3位はアクセント(B)です。なぁ〜んだ一番お手頃な
      サファリでいいじゃんという結末になりました。 もちろん物として完成度、満足感はダイアログ3です。チャーミングポイントは加工の手間がかかっているお尻のシガーのような丸み、日本刀か薙刀を思わせる緊張感のあるクリップそして中軸のファインピッチのネジ部はスポーツカーのピストンの様。全体として全く破綻のないデザインです。作る側はどこを見てもコストが掛かって、さぞかしクリヴィオさんとエンジニアの間で激論がかわされたのではないでしょうか。
      おかげさまで私の宝物箱にコレクションされることになりました。ご紹介ありがとうございます。

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    9. ご丁寧な経過連絡ありがとうございます。Lamy Safariいいですよね。僕も2本持ってます。鉄ペンといえば今僕が一番良く使っているのがWaterman Expert IIです。自分で気に入るように研磨できたせいかどこまでも書いていけそうで(笑)。万年筆は書く喜びを教えてくれた大切な相棒です。

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