子供の頃に始めて飲んだ紅茶は、すごく紅茶の味がした。
それを僕は紅茶を飲むたびに思い出す。鮮烈な赤、フルーティーな香りと渋み。
今も好きで紅茶を飲むけれど、始めて飲んだ紅茶の味はもう戻ってこない。
今紅茶を飲むのは、あのときの体験を思い出したくて飲んでいるのかもしれない。
それは紅茶に限らず、全て僕達が普段口にするものに共通する落胆かもしれない。それぞれの食べ物や飲み物に、始めて口にしたときの鮮烈な原体験が刻印されている。僕達は今もそれを追体験したくて淡い期待とともに食べ物を口するけれど、その期待がかなえられることはすごく少ない。
でも例外が二つある。
みなさんはお風呂に何を持って入りますか?
僕は気楽に読める本と一緒に、よく食べ物を持ってお風呂に入ります。
夏ならおかき、冬ならミカン。
お風呂で食べる食べ物のおいしさは特別です。おかきなら、醤油の香りがすごくするし、みかんはまるで始めて食べるように味の輪郭が鮮明です。
たぶんね、お風呂の湿度が関係していると思う。年齢とともに嗅覚も味覚も落ちるけれど、湿度の高いところでは知覚神経の末端が潤って刺激を伝達しやすくなっているんじゃないだろうか。
まだ試したことはないけれど、紅茶もお風呂で飲むと、もっとおいしいんじゃないかな。
もう一つの例外は空腹です。
僕は大学時代にあることを心に決めて三日間水も食べ物も全く口にしなかったことがある。そしてそのことをクラスや友人の誰にも黙っていた。最後の三日目に、なんと午前の体育の授業で短距離のマラソンがあった。死ぬかと思った。お昼になって学食でランチを食べたとき、最初に口にしたキューリの味は今も覚えている。
それはこの世で始めて口にするキューリの味でした。
僕達は普段三日間も断食できないけど、お風呂でならもっと簡単に原体験を思い出すことができる。楽しい本を読みながら、しみじみとおかきを味わう。
みなさんはお風呂に何を持って入りますか?
2007/09/05
お風呂に持ってはいるもの
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